公立ルートを行く

公立中学校で3年間を過ごし、高校受験を経験して、自分のベスト大学に進学する教育ルートの魅力を発信します

筑波大学の学校推薦型選抜から国立大学入試の未来図が見える

 筑波大学は、国内有数の国立大学である。Times Higher Educationが発表する「THE 日本大学ランキング」で第9位にランクインしている。今回は、同大学の学校推薦型選抜を見ていきたい。

 

特徴その①
大学入学共通テストが課されない

入試日程

出願書類提出期間:11月1日〜8日
小論文・面接等:11月29日〜30日
合格発表:12月13日

 

 ご覧の通り、大学入学共通テストが課されない(人間学群心理学類を除く)。これは、高校の学校長が「この生徒の学力を保証します」ということでないと成り立たない。

 

特徴その②
学校推薦型選抜の入学者全体に占める割合は26%と高い

募集人員

 募集人員総数は555人である。2023年度入試での入学者数は564人で入学者全体の26%に相当する。国内トップ10の国立大学としては、学校推薦型選抜での入学者の割合はかなり高い(東大は3%、東工大は10%程度)。

 

 個人的に関心のある生命環境学群(3学類)と理工学群(今回は2学類を選んだ)の募集人員は以下のとおり:

生命環境学群
 生物学類 20人
 生物資源学類 27人
 地球学類 12人

理工学群
 化学類 13人
 社会工学類 15人

 

 この数字を眺めるだけでは、あまり意味がないので、2023年入試結果を見る。

 

2023年度入試結果

受験者数→合格者数

生命環境学群
 生物学類 29人→20人
 生物資源学類 47人→27人
 地球学類 20人→12人

理工学群
 化学類 23人→13人
 社会工学類 37人→15人

 

 受験者数(志願者とほぼ同数)が少ないのが不思議でならない。筑波大学なら、全国の高校生が関心を持ちそうなものだが、なぜだろうか。旧帝(北海道、東北、名古屋、大阪、京都、九州)なら地方に行くのはいいけど、筑波だと「ちょっとね」ということだろうか。

 

特徴その③
出願・推薦要件はそれほど厳しくない

出願書類

調査書
推薦書
志望の動機
活動報告書
英語資格合格証明書等※

 

英検の場合、CSEスコア1950ー2299。

 英検2級と準1級の間に相当する。一橋大学の学校推薦型選抜に比べたら優しい。

 

推薦要件

重要なポイントは以下:

  • 調査書の学習成績概評A段階に属する者
  • または、個別学力検査等に合格できる程度以上の学力を有する者

 

ここでは、生物学類の推薦要件を記載する(一部簡略記載)

(1)生物界や生き物の仕組みに関する広い興味を有し、調査書の学習成績概評A段階に属する者、又は筑波大学の個別学力検査等に合格できる程度以上の学力を有する者

 

(2)生物界や生き物の仕組みに関する広い興味を有し、生物や数学に優れた能力を有し、かつ、生物の学習や実験に意欲的で、生物に関連する自主研究や国際生物学オリンピック(国内予選も含む)等で実績を有する者(客観的資料があれば添付)

 

(3)高校において、国際的な課題をテーマとする探究的な学習や、国際交流に関する活動に取り組み、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的な素養を身に付けた者(その根拠として、本人の作成する活動報告書を添付)で、生物界や生き物の仕組みに関する広い興味を有し、筑波大学の個別学力検査等に合格できる程度以上の学力を有する者

 

 尚、各高校で推薦し得る人数として、推薦要件(1)又は(2)で2人、(3)で1人とされる(生物資源学類は制限なし)。

 

 調査書の学習成績概評A段階は、評点平均4.3以上のことで、推薦入試では一般的な基準値である。「個別学力検査等に合格できる程度以上の学力を有する者」とは、推薦校において「筑波大学に個別学力検査等(一般選抜)により入学した者」以上の学力(高校の学習成績)があると認められた者と説明されている。

 

 筑波大学に毎年数名(少なくとも直近3ヵ年で数名)の生徒が進学している高校が対象になると読み取れる。

 

特徴④
志望する分野の知識と理解力、そして英語力が問われる

選抜方法

小論文(2時間)

 小論文というと、何か課題が与えられて自分の意見を数百字にまとめて書くようなイメージだが、いわゆる筆記試験である。生命環境学群であれば、生物学に対する理解力、論理的思考力、表現力が問われ、問題が英文でも出される。

 

面接

 生物学に対する考え方及び理解力、特に生物界や生き物の仕組みに関する広い興味と理解度が評価される。

 

選考

 小論文、面接、提出書類を含めて総合的に判定し、合格者が決定される。

 

想定されている志願者

①公立上位校の学力上位層

 調査書の学習成績概評A段階は、評点平均4.3以上のことである。高校によって違いがあると思うが、学力上位15%以内と考えておけば良いかと思う。

 

 例えば、横浜翠嵐高校の場合、学力15%以内の生徒は筑波大学より難関の大学を目指すはずである。つまり、学校によっては、学習成績概評A段階だと筑波大学を目指さない。

 

 以上のことを考えると、各都道府県の公立高校トップ10(但し、首都圏トップ校を除く)で学力上位15%以内の生徒を主たる対象にしていると思う。

 

 また、調査書に関して、学習成績概評A段階に属する生徒のうち、人物、学力ともに特に優秀な者については、それがわかるように記載する指示がされている。学習成績だけでなく、学校活動への取り組みが重要になる。

 

②特定分野に秀でた者

 推薦要件(2)にあるように、国際科学オリンピックでの実績や学内外での活動実績がある生徒も有力な対象者である。

 

筑波大学の入試制度は国立大学入試の未来図を現している

 一般選抜(大学入学共通テストを含む)と学校推薦型選抜の両輪型の入試制度は、国立大学入試の未来図を現していると思う。どちらが欠けても成り立たない。例えば、学校推薦型選抜だけにすると、各高校での推薦基準のばらつきが大きくなる。ちょうど、高校受験で各中学校での内申基準にばらつきがあるのと同じことである。

 「一般選抜により入学した者以上の学力があると認められた者」が重要なのだと思う。

 

 2023年6月に、筑波大学の永田学長が5年後を目処に入試改革を行う方針を表明した。個別学力検査を小論文や面接中心に変更するという構想である。現在の一般選抜と学校推薦型選抜が融合する可能性があるように思う。ただ、5年後はかなり先である。

 

留意すべき点

 国公立大学理系学部への進学を目指している受験生の場合、筑波大学の学校推薦型選抜に全てをかけるわけにはいかないので、大学入学共通テストの勉強はしなければならない。

 

 小論文対策はほどほどにしておくべきだと思う。大学受験塾の「学校推薦型・総合型選抜対策」なるものに時間とお金を使い過ぎてはならない。高校での全活動がどれだけ充実していたかが重要だと思う。