大学の経済学部への進学を決めるとき、高校3年生は大学で何を学ぶつもりなのだろうか。「学校推薦型選抜の枠がたまたま空いていた。」みたいな理由では困る。
マクロ経済学の基礎を学ぶ
大学4年間で470万円*1も使ってIS -LM分析*2などを学ぶぐらいなら、「マンキューマクロ経済学I入門篇」と「マンキューマクロ経済学II応用篇」(2冊で8,360円)をアマゾンで買って読んだ方がいいと思う。毎日1-2時間、半年ぐらい勉強すれば初期の目的は達せられるはずである。身も蓋もない言い方になるが、これが現実である。
最先端のマクロ経済学を学ぶ
普通の経済学部生がDSGEモデル(動学的確率的一般均衡モデル)*3を習得するのは困難であり、また苦労してDSGEを学ぶ意味がないかもしれない。
「物理数学の直観的方法」の著者である長沼伸一郎氏が、2016年に「経済数学の直感的方法」(確率・統計編、マクロ経済学編)と題した著作を世に出した。長沼氏は、マクロ経済学編の中で、DSGEモデルには解析力学に出てくるラグランジアンやハミルトニアンがツールとして使われていて、経済学を学ぶ学生の最大の難所になっていると説明している。
大学で学ぶ物理学については、先ず高校物理を微積分を使ってアップグレードする。次に解析力学(より抽象化されたもの)を学ぶが、これが非常に難解な代物である。そして初等レベルの量子力学を学び始めると、解析力学の意味がようやくわかってくるという仕組みになっている。高2か高3で文系に進み、大学の経済学部に入ってきた学生がラグランジアンやハミルトニアンをサクッと理解できるとは思えない。
それでも苦労してDSGEモデルをマスターしようとしても、マスターする意味があるのかが微妙である。DSGEモデルは2008年のリーマンショックを全く予想できなかったことで、その存在価値を大きく損なってしまった。理論の存在意義が問われているのである。マクロ経済学は、ちょうど損壊した建物を修復している途上にある。
ゲーム理論を学ぶ
ゲーム理論*4は学ぶ価値があるとは思う。ゲーム理論は、20世紀後半以降のミクロ経済学のベースになっただけでなく、他の社会科学の分野や生物学などにもインパクトをもたらした研究分野である。しかし、ゲーム理論を突き詰めていくと、高度な数学が必要になってくる。ゲーム理論の創始者の一人であるジョン・フォン・ノイマンは「人間のフリをした悪魔」と呼ばれた数学者である。2001年のアメリカ映画「ビューティフル・マインド」のモデルになったジョン・ナッシュも数学者である。
経済の歴史を学ぶ
これが一番面白いと思う。2023年のノーベル経済学賞は、ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授に与えられた。労働市場における男女格差に関する研究が評価されての受賞である。同教授は労働経済学者であり、経済史研究者である。
男女格差の大きな要因の一つが「チャイルドペナルティー」とされる。つまり、女性が子供を産むことで育児に時間を取られてしまい、仕事に復帰しても長時間労働が優遇される職場で不利になることを指すらしい。まさに最近までの日本そのものである(急激に変わり始めて良かった)。
マクロ経済学はどうなるんだろう
マクロ経済学はなぜ経済の未来を予想できないのだろうか。日本の総債務はGDPの260%を超えている。これがサステイナブルなのか否か、マクロ経済学は答えを示してくれない。
AIを駆使してマクロ経済を予想するようなモデルが生まれないだろうか。やはり、経済学の主役はマクロ経済学であってほしい。