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早稲田政経の数学必須化は 私大文系学部の未来を示唆する

2021年入試から数学必須化(大学共通テストの数I Aを利用)

 早稲田大学の政治経済学部が2021年入試から数学を必須科目にしたことは、大学受験市場においてかなり大きなインパクトがあったと思う。数学が苦手な高校生が国語・英語・社会の文系3科目に絞って受験勉強し、憧れの早稲田政経ブランドをゲットするルートが絶たれたからだ。最大のライバルである慶應大学法学部は文系3科目で受験できるので、このルート(文系3科目特化型)の受験生は早稲田から慶應に当然シフトしたはずである。

 

 何かを大きく変える時には、メリットとデメリットが生じる。それでも変化を決断するのにはそれなりの理由があるからだが、これにも必ず表の理由と裏の理由がある。ただ、表の理由だけが語られるので、裏の理由は推察するしかない。

 

数学必須化に踏み切った表の理由

 表の理由については、経済学も政治学も数学の素養が必要になってきたことを学部長が語っている。AI時代は統計解析ができないと厳しくなるので、まぁそういうことなんだろうと思う。ただ、経済学は数IAどころか、もっと高度な数学が本来必要になる学問なので、「今まで何やってたんだろう?」といった感じではある。

 

数学必須化に踏み切った裏の理由

 裏の理由は何だろうか。私の勝手な推察であるが、3つ考えられる。

 

①私大文系学部としての生き残り

 AI時代が到来した今、私大文系学部が存在価値を持ち続けるために、数学を教育カリキュラムの中に本格的に取り込む決断をしたのではないだろうか。つまり、私大文系学部としての存続がかかっているのである。私大文系の最高峰の学部としてのプライドにかけて、私大文系学部の今後のあり方・方向性を率先して世に示そうという意思が感じられる。

 

②早慶W合格者の取り込み

 二つ目の理由はかなり俗なものになるが、早稲田政経と慶應法学部(経済)にW合格した受験生の早稲田政経を選ぶ割合が上がると考えているのではないだろうか。東大・一橋が第一希望で残念だった受験生の場合、「折角数学を勉強したんだから」という理由で早稲田政経を選ぶというシナリオ(想定)である。東大・一橋は数学の試験が難しいので、そこを第一希望に勉強してきた受験生としては、数学なしで合格できる大学に入るのは少し寂しい。

 

③受験生流出は織り込み済み

 今、早稲田政経に一般入試で入る割合は既に5割を切っている可能性がある。これからの大学入試は、国公立大学が第一希望で大学入学共通テストを受ける受験生と、大学附属校からの内部進学者や推薦入試を選ぶ受験生の二極化がさらに進んでいくように思う。2025年入試から大学入学共通テストに「情報」が加わったら、その動きは加速しそうだ。早稲田政経にとって、一般入試で入ってくる学生は少数になってきている。数学必須化により受験生が減ったところで、その影響は限定的になってきているのである。

※早稲田大学の場合、学部によって一般選抜による入学者の割合はかなり違うようである。そして、この割合を正確に推定するのは結構大変である。政経学部の場合、一般選抜による入学者の割合はまだ5割以上の可能性はある。

 

他の私大文系学部は追随するのか、そして高校生はどうすべきか

 他の私大文系学部が追随するのか、これから注目して見ていきたいところである。国公立大学が第一希望の受験生の併願先になっていない私立大学の場合は受験生が激減するデメリットが大きいので、短期的には現状維持(文系3科目受験)を予想する。しかし、中期的には、その存在意義が問われるようになる。

 

 高校生の中には、高校に入ってから数学が苦手になり、文系を選ぶ人が多いと思うが、それでは時代に取り残されると思った方が良い。高校数学を本気で勉強しよう。得意になるのは大変だが、中学数学ができた人であれば、高校数学が苦手と思っているのは実は勘違いの可能性が高い。文系学部に進むにしても、数学は必要になるのである。