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「相互確証破壊」という理論を産んだ頭脳

 国家間の軍事的な関係において、「相互確証破壊」という理論ほど、その誕生から現在に至るまで、有効に機能してきたものはないのではないだろうか。しかし、この理論が有効に機能しない世界情勢になりつつあるように思える。

 

相互確証破壊

 1965年にアメリカの国防長官であったロバート・マクナマラが提唱した理論である。核兵器を保有する二つの国が存在するとして、一方の国が先制核攻撃を仕掛けても、もう一方の国が残存する核兵器によって確実に報復できるなら、お互い損なので、どちらも先制核攻撃をしないという理論である。シンプルなものほど有効に機能する典型例だと思う。

 

相互確証破壊の成立要件

 素人の言葉で記載すれば以下のようになる:

 第1の要件は、お互いが報復するのに十分な核兵器を保有していることである。一方の国の先制核攻撃によって、もう一方の国の核兵器が完全に無力化されてしまうようでは、この理論は成立しない。

 

 第2の要件は、相手の先制核攻撃を観測して(探知して)報復するまでの体制が構築されていることである。

 

 第3の要件は、対峙する核保有国の意思決定者が理性的であることである。

 

現在の世界情勢はちょっと危なくなってきた

 ロシア・ウクライナ戦争では、ウクライナが核兵器を保有していないので、ロシアとウクライナの間に相互確証破壊は成立していない。仮にウクライナがクリミアを奪還しそうになった時、ロシア(プーチン)が限定核攻撃に踏み切る可能性がある。その時、自国が危険に晒されているわけではないアメリカが核兵器を使ってロシアを攻撃するわけがない。恐ろしい話だが、アメリカはウクライナがロシアに勝たない程度に支援を続けるのだと思う。

 9月30日に米政府のつなぎ予算がギリギリのタイミングで成立したが、ウクライナへの追加支援は削られた。しかも、マッカーシー下院議長が解任されてしまった。11月中旬まで続く交渉は本当に予断を許さなくなってきた。

 

 北朝鮮がアメリカ本土を攻撃できる核兵器を保有したとき、どうなるのか。第3の要件が満たされていないように思う。しかし、アメリカにとっては日本や韓国がクッションになっている。北朝鮮がもし核兵器を使用するとすれば、そのターゲットはアメリカよリ先に日本か韓国になるのではないかと危惧する。しかし、北朝鮮と日本・韓国との間に相互確証破壊は成立していない。

 

 核大国が追い込まれる事態や核の拡散によって、相互確証破壊の成立要件を満たさない世界情勢になってきている。新しい理論を構築するか、相互確証破壊の成立要件を満たすようにするしかない。

 

ロバート・マクナマラの頭脳

 ネット上の情報になるが、ロバート・マクナマラという人は、大学で経済学を専攻し、数学と哲学を副専攻した。ハーバードビジネススクールで経営学を学び、第二次世界大戦中は陸軍の統計管理局で戦略爆撃の解析と立案をした。

 

 相互確証破壊は、1950年前後に誕生したゲーム理論の影響を受けている。そして、幅広い分野を学んだマクナマラという人物の頭脳から、このシンプル且つ有効な理論が生み出された。こう言っては大変申し訳ないが、大学で国際政治学を学んだだけでは、このような理論はなかなか生まれてこないと思う。

 

 やっぱり、数学は学ぶ必要がある。日本の場合、大学進学後に文系と理系に完全に分かれてしまうことが問題なのかもしれない。これだと知識の幅が狭くなる。2023年ノーベル経済学賞を受賞したハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授は、微生物学を研究するために大学に入り、途中で経済学に転じたようである。