公立ルートを行く

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進学重点校の教育課程表で見る教育方針の違い

 学習指導要領が2020年に改定され、社会や生活の場で活用できる「知識・技能」、未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力」、学んだことを社会に生かそうとする「学びに向かう力」の3つの資質・能力を育成していくことが学習目標に設定された。この学習目標の要となる授業として、「総合的な探究の時間」が必履修科目になっている。そして、探究のベースになる科目が理科と数学である。

 

 神奈川県の学力向上進学重点校(以下、進学重点校)の教育課程表をよく眺めると、各高校の教育方針の違いが浮かび上がってくる。数学の取り扱いでは、あまり差は出ない。文系理系コース分けのタイミングと理科及び探究への取り組みでかなり差が出る。

 

 それでは、各高校の教育課程表の特徴を見ていきたい。

 

 ※新たに進学重点校に指定された横浜緑ケ丘、多摩、小田原の3校は第二弾で行う。

 

横浜翠嵐高校

「令和5年度学校案内」より

  • 95分授業がベースである。

    ※さすが、横浜翠嵐だ。


  • 高1は共通履修で、数IA、化学基礎、物理基礎、生物基礎を必修する。

  • 高2で文系・理系に分かれる。数IIBは全員必修。文系コースでは、理科探究αという科目を必修する。理系コースでは、化学、物理/生物(いずれかを選択)を履修する。

    ※高2で文系・理系に分けることで、国公立大学現役合格の最短ルートを取ろうということか。文系コースでは、化学・物理・生物を履修しない。ただ、「理科探究α」の内容はわからないが、95分授業なので結構充実しているのではないかと想像する。

  • 高3文系コースでは、選択科目として数学Cを履修する。理系コースでは、数IIIC、化学、物理/生物を履修する。

  • 高1から高3まで「総合」(探究授業)がある。

    ※この学校なので、「総合」のレベルは高いと思うが、力は入れていない感じがする。

湘南高校

「教育課程表(令和4年度入学生)」より

  • 70分授業である。

  • 高1は共通履修で、数IA、化学基礎、生物基礎を必修する。

    ※高1で物理基礎を履修しない。「理科3科目(基礎)をいっぺんに履修するのは大変だから」なんてことはこの学校ではあり得ない。この学校のレベルからすると、のんびり感がありすぎる。しかし、物理は数IIBを履修してから学ぶのが理想的だと思うので、このパターンだとそれが成り立っている。

  • 高2も共通履修で、数IIB、物理基礎、化学を全員必修する。

    ※高2で化学を履修しておけば、文系・理系の選択を遅らせることができるということか。

  • 高3で文系・理系に分かれる。文系コースでは、数学総合I(前期のみ)を必修する。また、化学基礎(必修)、物理基礎/生物基礎(いずれかを選択)を履修する。理系コースでは、数IIIC、化学、物理/生物を履修する。

    ※文系コースは、国公立大受験を前提にした内容になっている。

  • 高1から高3まで「総合探究の時間」がある。

    ※横浜翠嵐と同様に、力は入れていない感じがする。

柏陽高校

新教育課程【2022年4月入学生(56期)以降】より

  • 65分授業である。

  • 高1は共通履修で、数IA、化学基礎、物理基礎、生物基礎を必修する。

  • 高2では、数IICが必修である。また、以下の4つの中から1つを選択する。
     化学+物理、化学+生物
     日本史探究、世界史探究

    ※高2で実質的に文系・理系に分かれる。高2で化学を履修しなければ、理系の目は無くなるだろう。

     数学Bより数学Cを先に履修するのはユニークだ。

  • 高3で正式に文系・理系に分かれ、数学Bは全員必修である。文系コースでは、地理探究または数 Iを履修する。理系コースでは、数III、化学、物理/生物を履修する。

  • 「総合的な探究の時間」が高1で1単位、高2で2単位設けられている。

    ※高3ではやらない。大学受験勉強に集中ということか。

 

厚木高校

「令和5年度入学生教育課程表」より

  • 65分授業である。

  • 高1は共通履修で、数IA、化学基礎、物理基礎、生物基礎を必修する。

    ※理科科目はサイエンスアイC、サイエンスアイP、サイエンスアイBという名称。

  • 高2も共通履修で、数IIBC、化学を必修する。また、物理/生物(いずれかを選択)を履修する。

    ※進学重点校の中で、生徒全員が化学・物理・生物のうち2科目を履修するのは厚木高校だけである。学校としての理系度が最も高い。


  • 高3で文系・理系に分かれる。文系コースでは、数IIを必修する。理系コースでは、数学Cが必修で、数IIIまたは数IIを選択履修する。また、化学、物理/生物を履修する。

    ※理系コースで数IIIと数IIが選択制になっている。私大薬学部などの受験を想定(数II選択の場合)しているのではないかと思う。

  • 高1でヴェリタス(探究活動)とエンジニアリグ(データ分析)、高2でヴェリタス(探究活動)、高3でヴェリタス(探究活動)を履修する。

    ※SSH(スーパーサイエンスハイスクール)なので、ヴェリタスが「総合的な探究の時間」に相当する。高1のエンジニアリング(データ分析)は、SSH指定校ならではの科目だと思う。

 

川和高校

「教育課程」より

  • 50分授業である。

  • 高1は共通履修で、数IA、化学基礎、物理基礎、生物基礎を必修する。

  • 高2で文系・理系に分かれる。数IIBは全員必修。文系コースでは、理科基礎という科目を必修する。理系コースでは、化学、物理/生物を履修する。

    ※高1・高2までは横浜翠嵐とほぼ同じだ。ただ、授業時間が違うので、授業内容はかなり違ってくるだろう。

  • 高3文系コースでは、選択科目として数学Cを履修する。理系コースでは、数学Cは必修で、数IIIまたは総合数学αを選択履修する。また、化学、物理/生物を履修する。

    ※理系コースで数IIIと総合数学αが選択制になっているのは、厚木高校と同じ狙いだと推察する。

  • 高1から高3まで、「総合探究」という科目が設けられている。

    ※私立文系(早慶)が多くなるのは何となくわかる。但し、文系コースでは、国立大学文系最高峰の東大、一橋大、東京外大の入試にしっかり対応している。

 

感想

  • 高1で物理基礎を履修しないのは、理系志望者にはハンデになる可能性がある。物理基礎では力学の基礎を学ぶが、万有引力の法則まではやらない。また、電磁気もやらない。これらの単元は物理で習う。つまり、物理基礎と物理のレベル差は非常に大きい。ただ、本来、物理は数IIBを履修してから学ぶのが理想的だと思うので、デメリットばかりではないかもしれない。

  • 高2で文系・理系に分かれるということは、高1の秋冬にコースを決めることになる。「まだ理科基礎科目を履修中なのに」と思う。高2で化学を必修にすれば、文系・理系の選択を高3まで遅らせることができる。しかし、最初から文系志望の生徒にとっては、大学受験に向けた最短ルートではなくなる。湘南高校の教育課程は、一見のんびりしているようで、実は意味が深いように思う。

  • これからの時代に必要な文理融合型の能力を得るためには、大学で文系学部に進むにしても、高校の理科を習得しておく必要があると思う。そういう点では、生徒全員が化学・物理・生物のうち2科目を履修する厚木高校の教育方針が素晴らしい。

  • 大学受験に向けた効率的な学習ルートを優先するか、高校での深い学びを優先するか。それによって、目指す高校は変わる。

 

総まとめ編は以下の記事を参照:

公立上位校の教育課程表を見る5つのポイント(総まとめ編) - 公立ルートを行く