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藤井八冠の対局を見て思うタイムマネジメントの重要性

 私はいわゆる「観る将」*1である。藤井聡太棋士が2016年にプロデビューしてから、2023年10月11日に王座を獲得して史上初の八冠になるまで、藤井棋士の対局を abemaTVや将棋アプリで観戦してきた。

 

 北斗神拳2000年の歴史で最強の男がケンシローなら、将棋400年の歴史で最強の棋士は藤井聡太八冠だと思う。

 

将棋は時間をコントロールした方が勝つ

 将棋のタイトル戦では、対局者二人がそれぞれ以下の持ち時間を持つ。持ち時間を使い切ると、1分将棋になる(1分以内に次の手を指さなければならない)。将棋を知らない方だと、これだけ持ち時間があったら、時間は余るだろうと思われるかもしれないが、途中で形勢に大きな差がつかない限り、普通は1分将棋になる。

 

対局者の持ち時間

名人戦 9時間
竜王戦・王位戦・王将戦 8時間
王座戦 5時間
叡王戦・棋王戦・棋聖戦 4時間

 

 藤井八冠は、小学6年生の時、日本詰将棋解答選手権で史上最年少のチャンピオンになり、新型コロナウイルス禍で同選手権が中断するまで5連覇を成し遂げた人物である。藤井八冠は、プロ棋士の中でも手を読むスピードが桁違いに早い。

 

 藤井八冠は、対局相手を1分将棋に誘い込むことができれば、負ける可能性を大幅に低下させることができるのである。

 

 プロ棋士の対局では、1手を指すのに2時間程度使うことはよくある。1時間を超えて次の手を考えることを一般的には「長考」という。しかし、プロ棋士の対局を観戦していて、長考して良い手が指される可能性は低いと思う。長考後の1手目はAIが示す最善手であったとしても、数手先で失着となる手が指されることが多い(ここで迷っていたことがわかる)。

 

 藤井八冠は自らが劣勢になったとき、相手が次の1手に迷うような局面に誘い込む。そして、相手に時間を使わせて、1分将棋に持ち込む。藤井八冠は1分将棋になっても決定的に悪い手を指さないが、他のプロ棋士は1分将棋になると、敗着となる手を指す可能性が高まる。こうして、1分将棋になる時点では相手が優勢であっても(AIが80%の確率で相手が勝つと予想していても)、最後は藤井八冠が勝ってしまうのである。

 

 藤井八冠に勝つには、絶対に1分将棋にしないタイムマネジメントが必要になると思う。

 

「勝てる」と思った時に生じる迷い

 藤井八冠の通算勝率は8割を超えている。お互いに全く同じ戦力でゲームがスタートすることを考えると、驚異的な勝率である。恐らく、そのうちの1割は、普通の棋士だと完全な負けゲームを逆転しているのである。藤井八冠でも劣勢になることはある。しかしこの時、相手が「次の手を少しでも間違ったらチャンスが逃げていく」というプレッシャーの中、思考に迷いが生じて、いわゆる魔がさしたような敗着手を指してしまうのをよく見てきた。

 

 受験に置き換えてみると、入試直前の模試で想定外に良い結果が出て、志望校に迷いが生じるのに似ているのではないだろうか。

 

受験への教訓

 藤井八冠の対局を見て、受験への教訓を取り出すと、以下の2点になるかと思う。

 

  • 入試では、時間配分のプランを決めてそれを守る。

  • 入試直前の模試の結果が想定外に良くても、勢いだけで受験校を引き上げない。

 

藤井八冠の今後を占う

 2023年の王座戦は、藤井八冠が初めてタイトル戦で負ける可能性を感じたシリーズだった。永瀬前王座がほぼ全ての対局で中盤のねじり合いを制し、シリーズ最後の2局では最終盤でほぼ勝勢であったと思う。しかし、1分将棋の中で敗着手を指してしまい、藤井八冠が勝利したのである。

 

 永瀬前王座の奮闘により、ライバル棋士達は藤井八冠に勝機を見出せるかもしれないと考えているはずである。一方で、藤井八冠はまだ21歳である。将棋のピークはまだずっと先だと思うので、これからさらに強くなれば、実は今回の王座戦が藤井八冠に最も迫ったシリーズだったという可能性もある。

 

羽生善治永世七冠の存在

 藤井八冠は将棋400年の歴史で最強の棋士であると景気のいい話をしてきたが、歴史的な評価が固まるのはまだ先になると思う。羽生善治永世七冠を完全に超えるのはほぼ確実とまでは言えない。タイトル戦で藤井八冠に初黒星を付けるのが羽生永世七冠になる可能性は十分にある。

 

*1:自分では対局をせず、もっぱらプロ棋士の対局を観戦する将棋ファンを指す。